新学期といえば信じられないような思い出がある。
国士舘大学4年を迎えた日に登校したら校門が閉鎖されていたのである。
学生が入れないとはどういうことだと不愉快な気持ちで
CAUTIONテープを破って突入しようとすると警官が手でバツ印を作って僕を阻止した。
他にも僕と同じことを試みた学生が数人いたが、誰もが入校を断られたのである。
不快極まりなく、眉を吊り上げて警官を睨んでいると、学校上空にヘリが到着し廻り始めた。
校内で理事長が殺害されたらしい。
誰かが言った言葉に耳を疑ったが、やがてそれが真実だと解ると背筋が凍りつくような思いになった。
僕はなんて大学に来てしまったんだろう。
もともと硬派なイメージであることは知っていたが、まさかまさか、こんな事件が起こる大学に…
僕は体育教師になるために国士舘に来たのに、そこでは教育とは真反対の事件が起きている。
僕は失望した。
その事件で、学校は一週間の臨時休校を余儀なくされ
学生ではなく国の番人が出入りする物々しい大学となってしまった。
あれから29年が経ち、国士舘は過去の惨劇など微塵も感じさせないイマドキの大学になった。
30年前には学生のほとんどが男子だったが、今では男女比がほぼ同じで
学食には洒落たハンバーガーショップなんかも入っている。
30年前は僕たち体育学部の学生が集団で学ランを来て小田急線に乗ると、
他の乗客に威圧感を与え、少し申し訳ない気持ちになったけれど、
今ではそんなこともなく、後輩たちは普通の学生さんとして車中を共にしている。
社会貢献を目的とした学生ボランティアも数えきれないほどいる。
ちょっとチャライ系のサークルも僕らの30年前の100倍ぐらいある。
国士舘大学は変わった。
体育バカだけじゃなく、普通の高校生が入ってもいいかなと思えるような大学になった。
4年間を充実させるための学び舎として選ばれる私大のひとつになった。
母校を勝手に変更することはできないが、この30年で母校が変わってくれた。
これから30年経った頃には、今の在校生が腰を抜かすぐらい素敵な大学になってくれることを切に願う。